2009年07月24日
ナダル発言の波紋
前回の記事でスペインの大手のMarca紙の記事タイトルが『僕の方がフェデラーより有利』という刺激的なものであったために反響が大きかったと書きましたが、これはナダルの発言でスペインが大騒ぎしたという意味ではありませんので、誤解のないように願います。
Marca紙に殺到した350近くのコメント全部に目を通すことはできませんでしたが、(スペイン語ですので大変なのです)二日間にわたってやっと200近くのコメントを読み切りました。
http://bit.ly/3H8w4
読んでいくうちに驚いたのは、意外に多くのナダル批判があることです。でもこれはMarca紙の扇情的な見出しに反応したものも相当あると思いますので、一概にこれらのコメントがスペインのナダル観を代表しているものと考えるのは危険だと思います。
また『僕の方がフェデラーより有利』のタイトルにむかついたフェデラーファンが多く投稿したことによって「ナダル批判が多かった」という印象を受けたのかもしれません。
フェデラーvsソダーリングのRG決勝戦でコートに乱入してきたスペインのふとどき者も、ナダルではなくフェデラーのファンでした。彼はフェデラーvsナダルの決勝を見越してチケットを購入。まさかナダルがその前に敗退してしまうなど想像もつかなかったでしょうが、もしナダルが決勝に出ていたなら・・・? バルセロナの旗を掲げスイスの国旗のソックスをはいたこの乱入者の出現は、ナダルへの最大の侮辱行為となるところでした。
またナダルにネガティヴである他の理由として、マヨルカに対する歴史政治的感情、サッカーカンツリー、スペインのチーム間の対抗意識(ナダルはレアル・マドリッドの熱狂的ファン)、ナダルの度重なる怪我に対する失望などがあげられると思います。
今回の記事のタイトルが、フェデラーファンを刺激するようなものであったためか、フェデラーファンから多くのアンチ・ナダルのコメントが寄せられました。全体の約4割くらいがフェデラーを褒め讃えるコメントだったように思います。(この何割という表現は、読後の印象からくるもので正確ではありません。)
Federer ファンのコメント
(ナダルファンの皆様、気分を害さないでください。フェデラーファンは、ナダルの発言にムッときているということを理解の上で読んでください。)
「年齢差なんて関係ないよ。いつもフィジカルの限界に挑戦するナダルのやり方では選手生命が長続きするわけがなく、あと3年もたてばナダルも終わりかもしれない。そうするとフェデラーと同じ時期に引退となるから、23歳の年でも有利とは言えない。」
「フェデラーは完成された技術のテニスとたぐい稀ない才能に恵まれている。ナダルは肉体を使った足とパワーのテニス。今のままでは、ナダルの膝が治ってもフェデラーの領域にはとても届かない。」
「4歳の違いは大した違いじゃない。もしナダルが30歳で引退したとしても、フェデラーはまだ34歳。この年齢の二人のフィジカルな状態を比べてみたら、きっとフェデラーの方が上だと思う。」
「Nadalin(ナダリンちゃん)がもし今のフェデラーの27歳だったとしたらもう引退しているかもしれない。でもフェデラーはまだ31歳。まだまだ試合で活躍できる健康体。これは頑張りだけのテニスではなく、テニスの技術の最高峰を極める者に許される特権だってことをお忘れなく。」
「フェデラーは力の7割でも勝利を得ることができる。ナダルはいつも100%を出し切らなければ勝てない。これでおのずと勝負は決まる。」
このナダル攻撃に対してナダルファンは猛然とカウンターアタックをしています。しかし批判抜きの熱烈ファンは全体の2割くらいの感じで思ったより少なめでした。
Nadal ファンの激励のコメント
「若いということは絶対的に有利なことだということは分かりきったことだ。その当たり前のことをラファは言ったまでのこと。」
「フェデラーがサンプラスを打倒したように、ナダルはフェデラーを打倒していく。これは歴史の流れだ。」
「ランキングが落ちるのが怖くて無理をする選手が多い中で、ナダルがNo.1を失ったことに対する冷静な態度はすばらしい。」
「23歳でまだ年齢に余裕があるというのは本当のことだ。27歳になったらフェデラーの記録を超すと信じている。バモス、ラファ!」
「ナダルは賢明な青年だ。自分の今一番大切なことをよくわきまえて、試合に出ないでトレーニングに専念する彼の努力を讃えるべきだ。」
「ラファのいないテニスは本当につまらなかった。やっとテニスに戻ってきてくれて嬉しい!」
「それにしても、なんでこんなにアンチ・ナダルが多いんだ? それにこんなくだらない記事には吐き気がするよ。」
「僕たちのラファは、いつも100%の力を出ししきって試合に挑戦する。それがラファなんだから。US Openのタイトルに向けて100%頑張ってほしい。」
「ラファはまだ若い。そして彼のテニスはまだまだ向上し続けている。これからラファはフェデラーを超して彼の黄金時代を築く日が近いと信じている。」
「オリンピックの陸上選手を見習って賢明になってほしい。彼らは予選では全力で疾走しない。余力を残したプレーをしてGSのタイトルをできるだけ沢山獲得してほしい。」
残りの4割ですが、ナダルに失望したというか、ナダルの怪我の多さにイライラしているとでもいうか。ナダルのファンですが厳しいコメントが多かったように思います。
Nadal ファンの叱咤のコメント
「23歳は若くない。多くのティーンネージャーがラファの跡を追ってきている。年齢よりも技術を磨いてほしい。そして攻撃テニスをやってほしい。」
「ナダルの言葉に正直がっかりした。もし若いということだけが有利な点としたら、フェデラーよりも早く引退してしまえば意味のない言葉じゃないか。」
「20才のときから同じ怪我の繰り返し。スペイン史上ベストなテニスプレーヤーを、もし若くして失ってしまうようなことが起これば本当に悲しいことだ。」
「愚痴はやめて実行せよ。 膝のせいでRGでソダーリングに負けたのではない。ソダーリングはナダルよりも強かったことを認識してほしい。ラファの前に立ちはだかっているのはフェデラーだけじゃない。がんばってほしい。」
「ラファの口からそんな言葉を聞くとは驚きだ。彼はフェデラーではないと思っていたのに残念だ。」
「今までのナダルは負けたときも相手の選手を褒めることしかしなかったのに、あのつつましいナダルはどこへ行ってしまったのか?」
これらの多くのコメントを読み終えて、スペインの二つの顔をみたような気がしました。
一つの顔は、「スペインは熱狂的にナダルを応援しているという単純な構図ではない」こと。もう一つの顔は、「ナダルがスペイン人にとって崇高なヒーローであり続けなければならない」こと。
決して奢ることのない謙虚なラファ。
言い訳をしないスポーツマンシップに溢れるアスリート。
相手の気持ちを思いやるやさしい青年。
どんなときにでも生死をかけて戦うマタドール・ナダル。
たえず向上をめざす努力と魂の男。
フェデラーが勝ち続けていた時代に、自身のイメージに対して「自分はモンスターをつくり上げてしまった」と語ったことがありました。ナダルにもいつの間にか自分のつくりあげたモンスターが一人歩きをしてしまっているような気がします。
今までのナダルの記者会見は、はっきり言って退屈でした。英語というハンディがあるにせよ、毎回彼の返事は壊れたレコードのように同じ答えの繰り返し。対戦相手をいつも褒め、どの記者会見を読んでも「僕のゴールは向上すること」。あまりにも優等生すぎて正直いって食傷気味でもありました。
誰もが思っている当たり前のこと「ぼくの方が若いのだからフェデラーよりは有利だよ」こんな当たり前のことも今まで言えず聖人化してしまったナダル・・・
テニスにおいても、あまりにもフィジカルすぎたナダルのスタイルに修正が迫られ、選手としても大きな転期をむかえるナダル・・・
今まで何の疑いもなく親に従い、トニーコーチに従ってきたナダルは、今年は両親の離婚、膝の怪我、No.2へ降格が重なる試練の年となりました。長い辛いリハビリから解放され、やっとトレーニングに戻れたナダルの口をついて出た「僕のほうが有利だ」の発言は、彼が初めてみせた生身の23歳の青年の言葉だったと思います。
何かがナダルの中で変わりつつある・・・
ナダルがナダルであるためには何をしなければならないのか? その答えを求めて歩み出したナダルを私たちは温かく見守っていきたいと思います。
Marca紙に殺到した350近くのコメント全部に目を通すことはできませんでしたが、(スペイン語ですので大変なのです)二日間にわたってやっと200近くのコメントを読み切りました。
http://bit.ly/3H8w4
読んでいくうちに驚いたのは、意外に多くのナダル批判があることです。でもこれはMarca紙の扇情的な見出しに反応したものも相当あると思いますので、一概にこれらのコメントがスペインのナダル観を代表しているものと考えるのは危険だと思います。
また『僕の方がフェデラーより有利』のタイトルにむかついたフェデラーファンが多く投稿したことによって「ナダル批判が多かった」という印象を受けたのかもしれません。
フェデラーvsソダーリングのRG決勝戦でコートに乱入してきたスペインのふとどき者も、ナダルではなくフェデラーのファンでした。彼はフェデラーvsナダルの決勝を見越してチケットを購入。まさかナダルがその前に敗退してしまうなど想像もつかなかったでしょうが、もしナダルが決勝に出ていたなら・・・? バルセロナの旗を掲げスイスの国旗のソックスをはいたこの乱入者の出現は、ナダルへの最大の侮辱行為となるところでした。
またナダルにネガティヴである他の理由として、マヨルカに対する歴史政治的感情、サッカーカンツリー、スペインのチーム間の対抗意識(ナダルはレアル・マドリッドの熱狂的ファン)、ナダルの度重なる怪我に対する失望などがあげられると思います。
今回の記事のタイトルが、フェデラーファンを刺激するようなものであったためか、フェデラーファンから多くのアンチ・ナダルのコメントが寄せられました。全体の約4割くらいがフェデラーを褒め讃えるコメントだったように思います。(この何割という表現は、読後の印象からくるもので正確ではありません。)
Federer ファンのコメント
(ナダルファンの皆様、気分を害さないでください。フェデラーファンは、ナダルの発言にムッときているということを理解の上で読んでください。)
「年齢差なんて関係ないよ。いつもフィジカルの限界に挑戦するナダルのやり方では選手生命が長続きするわけがなく、あと3年もたてばナダルも終わりかもしれない。そうするとフェデラーと同じ時期に引退となるから、23歳の年でも有利とは言えない。」
「フェデラーは完成された技術のテニスとたぐい稀ない才能に恵まれている。ナダルは肉体を使った足とパワーのテニス。今のままでは、ナダルの膝が治ってもフェデラーの領域にはとても届かない。」
「4歳の違いは大した違いじゃない。もしナダルが30歳で引退したとしても、フェデラーはまだ34歳。この年齢の二人のフィジカルな状態を比べてみたら、きっとフェデラーの方が上だと思う。」
「Nadalin(ナダリンちゃん)がもし今のフェデラーの27歳だったとしたらもう引退しているかもしれない。でもフェデラーはまだ31歳。まだまだ試合で活躍できる健康体。これは頑張りだけのテニスではなく、テニスの技術の最高峰を極める者に許される特権だってことをお忘れなく。」
「フェデラーは力の7割でも勝利を得ることができる。ナダルはいつも100%を出し切らなければ勝てない。これでおのずと勝負は決まる。」
このナダル攻撃に対してナダルファンは猛然とカウンターアタックをしています。しかし批判抜きの熱烈ファンは全体の2割くらいの感じで思ったより少なめでした。
Nadal ファンの激励のコメント
「若いということは絶対的に有利なことだということは分かりきったことだ。その当たり前のことをラファは言ったまでのこと。」
「フェデラーがサンプラスを打倒したように、ナダルはフェデラーを打倒していく。これは歴史の流れだ。」
「ランキングが落ちるのが怖くて無理をする選手が多い中で、ナダルがNo.1を失ったことに対する冷静な態度はすばらしい。」
「23歳でまだ年齢に余裕があるというのは本当のことだ。27歳になったらフェデラーの記録を超すと信じている。バモス、ラファ!」
「ナダルは賢明な青年だ。自分の今一番大切なことをよくわきまえて、試合に出ないでトレーニングに専念する彼の努力を讃えるべきだ。」
「ラファのいないテニスは本当につまらなかった。やっとテニスに戻ってきてくれて嬉しい!」
「それにしても、なんでこんなにアンチ・ナダルが多いんだ? それにこんなくだらない記事には吐き気がするよ。」
「僕たちのラファは、いつも100%の力を出ししきって試合に挑戦する。それがラファなんだから。US Openのタイトルに向けて100%頑張ってほしい。」
「ラファはまだ若い。そして彼のテニスはまだまだ向上し続けている。これからラファはフェデラーを超して彼の黄金時代を築く日が近いと信じている。」
「オリンピックの陸上選手を見習って賢明になってほしい。彼らは予選では全力で疾走しない。余力を残したプレーをしてGSのタイトルをできるだけ沢山獲得してほしい。」
残りの4割ですが、ナダルに失望したというか、ナダルの怪我の多さにイライラしているとでもいうか。ナダルのファンですが厳しいコメントが多かったように思います。
Nadal ファンの叱咤のコメント
「23歳は若くない。多くのティーンネージャーがラファの跡を追ってきている。年齢よりも技術を磨いてほしい。そして攻撃テニスをやってほしい。」
「ナダルの言葉に正直がっかりした。もし若いということだけが有利な点としたら、フェデラーよりも早く引退してしまえば意味のない言葉じゃないか。」
「20才のときから同じ怪我の繰り返し。スペイン史上ベストなテニスプレーヤーを、もし若くして失ってしまうようなことが起これば本当に悲しいことだ。」
「愚痴はやめて実行せよ。 膝のせいでRGでソダーリングに負けたのではない。ソダーリングはナダルよりも強かったことを認識してほしい。ラファの前に立ちはだかっているのはフェデラーだけじゃない。がんばってほしい。」
「ラファの口からそんな言葉を聞くとは驚きだ。彼はフェデラーではないと思っていたのに残念だ。」
「今までのナダルは負けたときも相手の選手を褒めることしかしなかったのに、あのつつましいナダルはどこへ行ってしまったのか?」
これらの多くのコメントを読み終えて、スペインの二つの顔をみたような気がしました。
一つの顔は、「スペインは熱狂的にナダルを応援しているという単純な構図ではない」こと。もう一つの顔は、「ナダルがスペイン人にとって崇高なヒーローであり続けなければならない」こと。
決して奢ることのない謙虚なラファ。
言い訳をしないスポーツマンシップに溢れるアスリート。
相手の気持ちを思いやるやさしい青年。
どんなときにでも生死をかけて戦うマタドール・ナダル。
たえず向上をめざす努力と魂の男。
フェデラーが勝ち続けていた時代に、自身のイメージに対して「自分はモンスターをつくり上げてしまった」と語ったことがありました。ナダルにもいつの間にか自分のつくりあげたモンスターが一人歩きをしてしまっているような気がします。
今までのナダルの記者会見は、はっきり言って退屈でした。英語というハンディがあるにせよ、毎回彼の返事は壊れたレコードのように同じ答えの繰り返し。対戦相手をいつも褒め、どの記者会見を読んでも「僕のゴールは向上すること」。あまりにも優等生すぎて正直いって食傷気味でもありました。
誰もが思っている当たり前のこと「ぼくの方が若いのだからフェデラーよりは有利だよ」こんな当たり前のことも今まで言えず聖人化してしまったナダル・・・
テニスにおいても、あまりにもフィジカルすぎたナダルのスタイルに修正が迫られ、選手としても大きな転期をむかえるナダル・・・
今まで何の疑いもなく親に従い、トニーコーチに従ってきたナダルは、今年は両親の離婚、膝の怪我、No.2へ降格が重なる試練の年となりました。長い辛いリハビリから解放され、やっとトレーニングに戻れたナダルの口をついて出た「僕のほうが有利だ」の発言は、彼が初めてみせた生身の23歳の青年の言葉だったと思います。
何かがナダルの中で変わりつつある・・・
ナダルがナダルであるためには何をしなければならないのか? その答えを求めて歩み出したナダルを私たちは温かく見守っていきたいと思います。