2009年03月24日
真の王者になったナダル
2009年のインディアン・ウェルズの決勝は、マレーに6-1, 6-2でナダルの完勝に終わりました。
強風が斜め横から吹き荒れるセンターコートでの戦いは、まさにメンタルゲームに始まりメンタルゲームで終ったといえます。風でボールがアウトになろうと、ゴミがコートに舞い上がろうと、集中力を崩さなかったナダルは実に見事でした。
(決勝戦)
ナダルのサーヴから第1ゲームがはじまりましたが、両選手とも強風のためか慎重なラリーです。試し打ちのような感じでミスのない堅実なウォームアップのサーヴィスゲームをナダルがホールドしました。しかし第2ゲームに入ると突如ナダルのギアがアップし始めます。
先制攻撃をかけるがごとく、ナダルがウィナーを狙いましたがアウト。しかしこれにもめげず、ナダルは2度目のウィナーに挑戦。フォアのダウンザラインが見事に成功しました。
第1セットを決定したのは、第4ゲームだと思います。マレーが最初にブレークされたゲームです。ナダルはネットダッシュなどペースを変えながら、マレーの執拗なディフェンスの壁を破ろうとします。
長いラリーが続きました。しかし風の向きや強さの関係で、ウィナー狙いは50cmくらいラインの内側を狙った安全圏となります。しかしこれではマレーの俊足で追いつかれリターンされてしまいます。マレーのディフェンスの壁が厚く、ナダルがいらついてエラーとなることもありましたが、二人とも手堅くカウントはデュースに。
その時です。突然大きな紙がコートに舞い降りてきました。ゆっくりと観客席から舞い落ちる紙切れにマレーは集中力を失い、アンパイアーに「これは試合妨害なのだから、replayとするべきだ。」とクレームをつけましたが、アンパイアはこの紙切れを見なかったとして受け付けてくれません。このアンパイアの判定を不服にマレーはぶつぶつ文句を言い続けます。これでますますマレーは集中できない危ない状況に自分を陥れてしまいました。
それでもなんとかマレーは4回のデュースを辛抱強く繰り返したあと、ネットダッシュを試みます。しかしナダルのバックハンドのダウンザラインのパッシングショットがみごとに決まってブレークされてしまいました。
ここでナルバンディアン戦で5回のマッチポイントに耐えぬいて勝った、ナダルのウィニングレシピを思い出します。デュースではガッツのあるウィナーを狙うが、勝負を決定するポイントでは決して無理をせず自分の得意なショットで攻める。前にも書きましたが、ナダルの「ほどよいガッツと堅実さの微妙なコンビ」が今回も試合を決めるキーファクターになったように思います。
ブレークを許してしまったマレーは、ラケットを替えたり、怒鳴りちらしたり、ネットダッシュを試みたりと、様々な手をつかって挽回しようとしますが、時はすでに遅し。試合の流れは完全にナダルサイドとなり、第2セットもマレーがナダルの大河に打ち勝つことができず、ナダルの勝利に終わりました。
(ナダルのコメント)
「試合中はずっと足を動かし続けていたんだ。それがぼくがよいプレーができたキーだと思う。ラインすれすれは狙わなかった。今日のような日(風の強い)はできるだけコートの内側に入るようにしたんだ。結果的に悪いコンディションの受け入れ方が僕のほうがよかったのかも。アンディよりポジティヴだったのかもね。」
(マレーのコメント)
「ラファは悪いコンディションによく適応したと思う。球も僕よりもっとクリーンに打っていたし。打つときのポジションの入り方が僕よりよかった。だから彼がポイントのほとんどを得ることができたのだと思う。」
マレーとの試合では、ナダルは今までにないネットダッシュとロブをふんだんに使った立体的テニスを披露してくれました。 コートの前後左右を隅々まで球を追っかける二人のテニスは、マレーが完敗した試合であっても結構楽しませてくれる試合でした。実際ナダルのネットプレーにおける成功率は高く、11回のうち8回成功してポイントをとっています。一方マレーは10回のうち5回成功ですから、この調子でネットプレーをもっと増やせば、さらにナダルは強くなっていきますね。ますますフェデラーとの距離が離れていくようで、ため息が出てしまいます。
(Who is Nadal?)
裕福な家庭に生まれ、何の苦労もなくすくすくと育ってきたナダルに、あのような強靭な精神が培われてきたこと自体奇跡のような気がします。ナダルにはいろんな選択があったはず。テニスがだめならサッカー選手になりたかったと言っていますが、プロのアスリートにならなくても、家業を継いでビジネスマンになることもできます。アメリカのテニスの停滞は、あまりにもいろんなチョイスに恵まれていて、テニスにコミットする子供が少なくなってきていることが主な原因とよく言われますが、ナダルのケースを考えると、言い訳に聞こえてきます。
いくらコーチが優れていても、いくらサポート態勢が完璧でも、いくら肉体的な条件に恵まれていても、ナダルのような青年をつくりあげることは不可能なような気がします。あの不撓不屈の精神、あの燃えるような勝つことへの執念、あの不動の集中力は、周りがどんなにやっきとなって与えようとしても与えられない天性のものだからです。彼がこのまま膝や体の故障に悩まされることがなければ、世紀の偉大なアスリートとなることは間違いありません。
ナダルは現役の選手の中では、まだ自分はベストプレーヤーではない、ベストは13個の最高記録の保持者であるフェデラーだと言っています。いつも向上したい、もっと強くなりたいと望むナダルには、フェデラーの記録を破り、そしてサンプラスの記録を破って、そしてロッド・レイヴァー以降誰もが実現できなかった「年間グランドスラム」を獲得して初めて、自分がベストプレーヤーと呼ばれるにふさわしいと思っているのかもしれません。
(ここからはtennisnakamaの勝手な想像による独り言です)
「テニス史上最も偉大な選手になる」
ナダルは今まで一度もそのような野心を語ったことはありません。しかし彼の胸にだけ秘められた燃え続ける野望があるはずです。ジョコヴィッチが「世界一になってみせる」と豪語した後は、自分がかけたプレッシャーに負けてしまっています。フェデラーもしかり。「サンプラスを超す」ことをゴールにしてしまった彼も、大きな敵は実はナダルではなくて、プレッシャーをかける自分であることに気づいたはずです。
ナダルが賢明なのは、この危険な「自分」という怪物と上手に付き合ってきたこと。奢る心を持たず、いつも謙遜と感謝の気持ちを忘れない。
迷いのない心。ひたすら前人未到のゴールに向かってばく進を続けるナダルに、果たしてフェデラーが勝つことができるのか? 果たしてフェデラーはウィンブルドンでナダルに勝つことができるのか?
この質問の答えのカギはマイアミ大会が握っているような気がします。
強風が斜め横から吹き荒れるセンターコートでの戦いは、まさにメンタルゲームに始まりメンタルゲームで終ったといえます。風でボールがアウトになろうと、ゴミがコートに舞い上がろうと、集中力を崩さなかったナダルは実に見事でした。
(決勝戦)
ナダルのサーヴから第1ゲームがはじまりましたが、両選手とも強風のためか慎重なラリーです。試し打ちのような感じでミスのない堅実なウォームアップのサーヴィスゲームをナダルがホールドしました。しかし第2ゲームに入ると突如ナダルのギアがアップし始めます。
先制攻撃をかけるがごとく、ナダルがウィナーを狙いましたがアウト。しかしこれにもめげず、ナダルは2度目のウィナーに挑戦。フォアのダウンザラインが見事に成功しました。
第1セットを決定したのは、第4ゲームだと思います。マレーが最初にブレークされたゲームです。ナダルはネットダッシュなどペースを変えながら、マレーの執拗なディフェンスの壁を破ろうとします。
長いラリーが続きました。しかし風の向きや強さの関係で、ウィナー狙いは50cmくらいラインの内側を狙った安全圏となります。しかしこれではマレーの俊足で追いつかれリターンされてしまいます。マレーのディフェンスの壁が厚く、ナダルがいらついてエラーとなることもありましたが、二人とも手堅くカウントはデュースに。
その時です。突然大きな紙がコートに舞い降りてきました。ゆっくりと観客席から舞い落ちる紙切れにマレーは集中力を失い、アンパイアーに「これは試合妨害なのだから、replayとするべきだ。」とクレームをつけましたが、アンパイアはこの紙切れを見なかったとして受け付けてくれません。このアンパイアの判定を不服にマレーはぶつぶつ文句を言い続けます。これでますますマレーは集中できない危ない状況に自分を陥れてしまいました。
それでもなんとかマレーは4回のデュースを辛抱強く繰り返したあと、ネットダッシュを試みます。しかしナダルのバックハンドのダウンザラインのパッシングショットがみごとに決まってブレークされてしまいました。
ここでナルバンディアン戦で5回のマッチポイントに耐えぬいて勝った、ナダルのウィニングレシピを思い出します。デュースではガッツのあるウィナーを狙うが、勝負を決定するポイントでは決して無理をせず自分の得意なショットで攻める。前にも書きましたが、ナダルの「ほどよいガッツと堅実さの微妙なコンビ」が今回も試合を決めるキーファクターになったように思います。
ブレークを許してしまったマレーは、ラケットを替えたり、怒鳴りちらしたり、ネットダッシュを試みたりと、様々な手をつかって挽回しようとしますが、時はすでに遅し。試合の流れは完全にナダルサイドとなり、第2セットもマレーがナダルの大河に打ち勝つことができず、ナダルの勝利に終わりました。
(ナダルのコメント)
「試合中はずっと足を動かし続けていたんだ。それがぼくがよいプレーができたキーだと思う。ラインすれすれは狙わなかった。今日のような日(風の強い)はできるだけコートの内側に入るようにしたんだ。結果的に悪いコンディションの受け入れ方が僕のほうがよかったのかも。アンディよりポジティヴだったのかもね。」
(マレーのコメント)
「ラファは悪いコンディションによく適応したと思う。球も僕よりもっとクリーンに打っていたし。打つときのポジションの入り方が僕よりよかった。だから彼がポイントのほとんどを得ることができたのだと思う。」
マレーとの試合では、ナダルは今までにないネットダッシュとロブをふんだんに使った立体的テニスを披露してくれました。 コートの前後左右を隅々まで球を追っかける二人のテニスは、マレーが完敗した試合であっても結構楽しませてくれる試合でした。実際ナダルのネットプレーにおける成功率は高く、11回のうち8回成功してポイントをとっています。一方マレーは10回のうち5回成功ですから、この調子でネットプレーをもっと増やせば、さらにナダルは強くなっていきますね。ますますフェデラーとの距離が離れていくようで、ため息が出てしまいます。
(Who is Nadal?)
裕福な家庭に生まれ、何の苦労もなくすくすくと育ってきたナダルに、あのような強靭な精神が培われてきたこと自体奇跡のような気がします。ナダルにはいろんな選択があったはず。テニスがだめならサッカー選手になりたかったと言っていますが、プロのアスリートにならなくても、家業を継いでビジネスマンになることもできます。アメリカのテニスの停滞は、あまりにもいろんなチョイスに恵まれていて、テニスにコミットする子供が少なくなってきていることが主な原因とよく言われますが、ナダルのケースを考えると、言い訳に聞こえてきます。
いくらコーチが優れていても、いくらサポート態勢が完璧でも、いくら肉体的な条件に恵まれていても、ナダルのような青年をつくりあげることは不可能なような気がします。あの不撓不屈の精神、あの燃えるような勝つことへの執念、あの不動の集中力は、周りがどんなにやっきとなって与えようとしても与えられない天性のものだからです。彼がこのまま膝や体の故障に悩まされることがなければ、世紀の偉大なアスリートとなることは間違いありません。
ナダルは現役の選手の中では、まだ自分はベストプレーヤーではない、ベストは13個の最高記録の保持者であるフェデラーだと言っています。いつも向上したい、もっと強くなりたいと望むナダルには、フェデラーの記録を破り、そしてサンプラスの記録を破って、そしてロッド・レイヴァー以降誰もが実現できなかった「年間グランドスラム」を獲得して初めて、自分がベストプレーヤーと呼ばれるにふさわしいと思っているのかもしれません。
(ここからはtennisnakamaの勝手な想像による独り言です)
「テニス史上最も偉大な選手になる」
ナダルは今まで一度もそのような野心を語ったことはありません。しかし彼の胸にだけ秘められた燃え続ける野望があるはずです。ジョコヴィッチが「世界一になってみせる」と豪語した後は、自分がかけたプレッシャーに負けてしまっています。フェデラーもしかり。「サンプラスを超す」ことをゴールにしてしまった彼も、大きな敵は実はナダルではなくて、プレッシャーをかける自分であることに気づいたはずです。
ナダルが賢明なのは、この危険な「自分」という怪物と上手に付き合ってきたこと。奢る心を持たず、いつも謙遜と感謝の気持ちを忘れない。
迷いのない心。ひたすら前人未到のゴールに向かってばく進を続けるナダルに、果たしてフェデラーが勝つことができるのか? 果たしてフェデラーはウィンブルドンでナダルに勝つことができるのか?
この質問の答えのカギはマイアミ大会が握っているような気がします。
投稿者 Tennisnakama 01:52 | コメント(2)| トラックバック(0)
ラファファンとしては、0―40とかからサービスキープしたりする世話の焼けるラファもたまらないわけですが、Tennisnakamaさんから王者の称号をいただいて、うれしいです!
私はちょうど飛行機に乗っていてラファの決勝を見られず、これから録画で見るのですが、(成田がFEDEXの事故で閉鎖されたため、緊急に着陸した千歳でラファ優勝の知らせを聞きました)↑の記事を読んでから見るとまた格別の喜びがあるでしょうね。うれしい記事をありがとうございます!
パリで、ローランギャロスのツアーに参加しました。ロッカールームやセンターコートにも入れてもらって、とても楽しかったです。パリに行かれるテニスファンの方にはお薦めのツアーですよ!(英語のツアーもあるし、ローランギャロスのHPからメールで予約できます)
今年のローランギャロスは、夫が出張でヨーロッパに行くので、息子(すでに夏休み)と久しぶりに家族でパリに行こうなんて、夫一人で張り切っているのですが、私としてはテニス観戦は熱烈なテニスファンと観たいので、実はあまり乗り気ではないのです。(ちょっとわがままかもしれませんが)ですから今どうしようかなと迷っているところ。